タイトルの「三体」とは
タイトルの「三体」とは天体力学の「三体問題」を由来としています。
三体問題
それぞれが重力の影響を及ぼし合う3つの天体の運動がどのような軌道になるかを問う問題。
(限定的な条件を除き)一般的には解けない事が証明されている。
今回はその「三体」1巻の詳しいあらすじと簡単な解説。
SFを読むのは苦手だけど内容を知りたい方や挫折してしまった方、2巻以降を読む際の復習にどうぞ。
三体のあらすじ(ネタバレあり)
三体は二人の視点で話が進みます。
- 文潔(ウェンジュ) … 女性、天体物理学者
- 汪淼(ワンミャオ) … 男性、ナノマテリアルの研究者
文潔① -文化大革命-
文潔(ウェンジュ)の章は彼女の半生が描かれ、約40年前中国で実際に起こった文化大革命(1966-1976)を舞台にした知識層の迫害や虐殺から物語は始まります。
文革によって父が殺され、紆余曲折の果て謎に包まれた軍事施設「紅岸基地」で働くことになった文潔。
この最初の章がややとっつきづらく感じてしまう人は多いのではないでしょうか?
もちろん後から考えれば必要な描写ではあるのですが、ここはちょっと我慢が必要な部分で、それが最初から始まってどれだけ続くか分からないので挫折する人が多そうです。
汪淼① -科学の死-
その我慢の冬が開けると、待ちに待った「三体」本編が始まります。
現代の主人公はナノマテリアルの研究者である汪淼(ワンミャオ)。
ある日、汪淼のもとへ突然現れた警察と軍人。そして連れていかれた軍の会議で最近科学者の自殺が相次いでいることを知らされます。
その中には汪淼が密かに憧れていた女性であり、文潔の娘でもある理論物理学者の楊冬(ヤンドン)もいました。
その真相の追及に加わった汪淼でしたが、その翌日から自身が撮影した写真にのみ写る謎のカウントダウンを発見。
その後、カウントダウンは汪淼の視界に直接かつ絶え間なく映り続けるようになりました。
医者に行っても精神を心配されるだけで衰弱する汪淼ですが、謎を解く為に訪れた天体観測センターでは干渉などできるはずのない宇宙背景放射まで明滅によってカウントダウンを刻み始めました。
宇宙マイクロ波背景放射
宇宙のあらゆる方向から一様に降り注いでいる電磁波。
ビックバンによって発生した光が宇宙の膨張によって波長が伸びてマイクロ波となったもの。
どの方向からも等しく入射していることから宇宙に中心が無いことが分かる。
それらは現代の科学では説明できない事象であり、知性を持つ上位存在を感じずにはいられないものでした。
それは科学を信奉する汪淼には耐えがたい事実であり、自殺した科学者たちも同じような不可思議な体験(粒子加速器での実験でありえない結果が出たり)をしたようです。
この世界の仕組みを少しずつ解き明かしてきた科学、それは科学者にとって揺るぐことのない絶対のものであるはずでした。
しかしそれは幻想だったのか?
「物理学は存在しない」と書き残して自殺した楊冬。
人類史の宝であり絶対の法則であるはずだった物理学、それはこれまでは神のきまぐれで偶々そのように見えていただけで、明日からは無価値になるような不確かなものだったのでしょうか?

めちゃくちゃ気になる展開にワクワクしてきたゾ!
汪淼② -VRゲーム「三体」-
汪淼(ワンミャオ)はその真相を探っていく過程であるゲームの存在を知ります。
VRオンラインゲーム「三体」。
どうやら小説と同じタイトルであるこのゲームの中にヒントがあるようです。
「三体」はゲーム中の経験を完全に体感できるようになっており、プレイする為にはヘルメット型のヘッドマウントディスプレイと感覚刺激を全身に伝える「Vスーツ」を装着する必要があります。
「三体」の世界では太陽の運行が不規則で予測が付かず、急激に冷え込んだり灼熱になります。
三体世界の太陽の運行は、地球と同じように一定周期で太陽がめぐる「恒紀」と不規則で全く予想のつかない「乱紀」があり、乱紀の間は人間の生存は難しいものとなります。
三体人はこの環境に適応する為に、体中の水分を絞り出してペラペラの皮になって仮死状態になる「脱水」という能力を持つように進化しており、脱水状態では外的要因がない限り死亡せず歳をとりません。
そして水に浸せば元の活動状態に戻ることが出来ます(自力では不可能ですが)。
これを「再水化」と言います。
乱紀の激しい気候を耐える為に、その間は必要最低限の数を残してほとんどの三体人は脱水体となり長めの恒紀の到来まで「乾燥倉庫」へ保管されます。
恒紀は1日~1世紀続くとされ、長く続くと予想した際にその時代の統治者が「再水化」の命令をします。
そのため、三体世界では太陽の運行の正確な予想が最も重要な使命でした。
この気紛れで暴力的な太陽により三体世界は常に破滅の危機にさらされており、この太陽の運行法則を解明することがこのゲームのクリア条件となるようです。
三体世界の文明は、太陽の急接近による灼熱や長期間昇らないことによる極寒で何度も滅亡し、そのたびに長い時間をかけて1から復興していました。
汪淼が初めてログインした時は137度目の文明でした。
文潔② -紅岸プロジェクト-
ストーリーの合間に文潔(ウェンジュ)の過去(40年前)が差し込まれます。
紅岸基地の役割は、太陽系外の知的生命体との交信でした。
アメリカで実際に行われたSETI(地球外知的生命体探査)と同じことを、他国に先んじて行い優位性を取ろうというのが「紅岸プロジェクト」です。

SETIは映画「コンタクト」で詳しく描かれています。
非常に面白い映画なのでSF好きの方にはオススメ。
その科学的知識と勤勉さから紅岸プロジェクトで重宝されていき、中核的存在になっていく文潔。
そこで親切にしてくれていた上官と結婚しました。
そして文潔はある日、衝撃的な体験をすることになります。
汪淼③ -謎の宗教団体と”主”の存在-
汪淼(ワンミャオ)は「三体」のプレイと同時に現在の科学を脅かしている存在を調べていました。
今では紅岸基地を去って隠居しておりこの事件で娘を失った文潔を訪ねたり、重要な情報を知っているであろう人物が殺されるという不穏当な事件を経て、そこに謎の宗教団体の存在を知った汪淼。
この宗教団体が一連の不可思議な現象を手引きしており、科学者を絶望させるような現象を引きおこして科学の発展を阻害しようと暗躍しているようです。
何故そんなことをするのか、そしてその構成員が信奉している”主”とは何なのか。
汪淼④ -「三体」の終わり-
汪淼は2回の三体文明の滅亡を経て、この不可思議な太陽の正体が1つではなく3つでありその不規則な運航の原因が三体問題であることに気づきます。
三体世界の謎を三体問題だと解き明かした汪淼、しかし三体問題に解はありません。
それから何度かの滅亡を繰り返して最も進んだ200度目を過ぎた文明で、ついに三体世界の人類(三体人)はいつ滅ぶとも分からないこの惑星を見限り、生命の住める惑星への移住を目指して大量の宇宙船を建造し暗黒の宇宙へと遠征を始めました。
この三体艦隊は最高速では光速の10分の1の速度で航行でき、一番近い4光年先の恒星系を目指します。
そして汪淼は、この三体世界がただのゲームではなく実際に天の川銀河に存在する惑星の歴史を追体験する為のものだと知ります。
そして、その惑星は地球から4光年の距離にあることも。
汪淼⑤ -地球三体協会-
「三体」をクリアした汪淼は宗教団体「地球三体協会」の集会に招待されます。
会場には300人以上がおり、皆がみな社会的に有名な人物(政治家、科学者、文学者など)でした。
そこに総帥と呼ばれる人物が到着します。
それは文潔(ウェンジュ)その人でした。
多くの科学者を絶望させるような現象を起こし科学を衰退させようとした、人類への攻撃ともいえる一連の事件を起こした団体のトップ。
その結果実の娘さえ自殺してしまった行い、文潔は何をしようとしているのか。
文潔③ -三体世界との交信-
宇宙とのメッセージを送受信する仕事を任されていた文潔はある日、宇宙から受信した電磁波ノイズの中に普段とは違うものが含まれていることに気づきます。
そこに知性が宿っているのを直感した文潔は解読システムにかけ、その解読結果に驚愕しました。
やはりそれは太陽系外の知的生命体からのメッセージでした。
紅岸基地から信号を送ったのは9年前、往復を考えるとその星は4光年ほどしか離れていないことになります。
それはメッセージの発信源が、太陽系からもっとも近い恒星系であるアルファケンタウリであることを示しています。
地球から最も近い恒星系に宇宙への発信が可能なほどの知的生命体の文明があり、交信に成功した。
これは人類史において最も重要な発見であり、奇跡的な確率です。
しかし、そのメッセージの内容は予想に反したものでした。
「応答するな!!!」で始まったそのメッセージには、三体世界の歴史と現在は移住できる星を探していること、現時点では地球の存在は分かっても正確な位置(三体世界との距離)は分からないこと、このメッセージに応答するとその経過時間から地球の位置が判明してしまうこと、そして三体世界は地球を侵略するであろうこと。
このメッセージを送った三体人はその世界の送受信施設で働く末端の人物で、地球を侵略したくない平和主義なので政府の方針に反したメッセージを独断で送信したとの事です。
太陽系外の知的生命体との初の交信は快挙ではありますが、相手は滅亡を目前にして必死に移住先を探しており、地球よりもはるかに優れた技術力を有しています。
地球の位置がばれてしまうと侵略されてしまうのは火を見るより明らかであり、紅岸プロジェクトのメンバーとして文潔がすべきことは当然上司への報告です。
そしてそうした場合は三体世界への応答は行わないでしょう。
しかし、文潔は上司への報告を行わず躊躇なく応答メッセージを送信します。
「来て!」
そして地球を征服して欲しいと。
文潔④ -文潔の想い-
これにより人類の運命は破滅的なものとなりました。
なぜ文潔(ウェンジュ)はそのような行動をしたのか。
文化大革命では純粋な知識の探求が悪として弾圧され、その中で理不尽に父を失い、信頼していた人から幾度となく裏切られてきた文潔は人類の未来に暗い気持ちしか持てませんでした。
「すでに人類は自分たちの力で正しい方向を向くことは出来ないところまで来てしまっている。」
そう常々感じていた文潔にとって、より優れた知的生命体の存在は光明でした。
三体文明に地球人類の手綱を握って欲しい。
それはとても危険な希望であり、ただただ人類が滅ぼされる可能性の方が高いでしょう。
それでも文潔にとっては、このまま進むよりはましだと思えるものでした。
三体世界の浸食
それから三体世界による地球文明の侵略が静かに始まりました。
文潔(ウェンジュ)の知人の大富豪による独自の送受信システムの建設と、三体文明を”主”として崇める世界三体協会の設立と普及。
VRゲーム「三体」は世界三体協会の布教の為に作られ、主に知識層に浸透していきました。
三体艦隊の最高速は光速の10分の1とはいえ、加減速がある為地球への到達は450年後。
それまでは片道数年かかる信号通信による交信を行う必要があります。
そしてその450年の間に人類の科学力が三体文明を脅かすほどに成長する恐れがあります。
しかし、三体世界は別の「あるもの」地球に送ってきました。
それは二つの陽子でした。
陽子は素粒子(物体を構成する最小単位)の一つであり、これならば粒子加速器を使って光速に近いスピードで地球に送り出すことができます。
とはいえただの陽子、陽子など地球上にいくらでもあります。
4光年先から陽子を地球に向かって正確に撃ち出す技術は素晴らしいですが、その技術力の誇示の為に三体世界はそんなことをしたのでしょうか?
三体世界の科学力は地球人類のそれを遥かに超えていました。
三体世界は「智子計画(ソフォンプロジェクト)」というものを進めていました。
智子計画は陽子を三次元の立体構造から二次元の平面へと展開し、そこへ電子回路をエッチングすることでスーパーコンピューターへと作り変える科学アプローチです。
「智子(ソフォン)」はおそらく知恵を持った素粒子というような意味でしょう。
智子は自身の次元を変更する能力と高度な人工知能を持ち、光速で移動が可能です。
そして完成し再び三次元の陽子の形に戻された2粒の智子は、ある指令を受け地球へと送られました。
智子の暗躍
智子(ソフォン)が受けた指令、それこそが地球科学の発展の阻害でした。
智子は完成したばかりの粒子加速器へと潜入し、実験のターゲット粒子と入れ替わって誤った実験結果を紛れ込ませました。
智子は将来的に重要であろう分野の科学者の網膜やカメラのフィルムやセンサーを高エネルギー状態で光速で移動し、文字を出現させました。
智子は二次元の平面へと展開し、地球を包み込み自身の透明度を調整することで宇宙背景放射を明滅させました。
これらは光速で移動できる智子にとっては世界中でほぼ同時に行える作業です。
それによって人を殺すのではなく、科学の発展に対する希望を殺すことで文明の発展を止める事が三体世界の目論見でした。
三体世界が製造した智子は4粒、2粒は三体世界に残してあります。
これは量子もつれにより光速の制限を無視して情報のやり取りを行う為であり、それによりタイムラグなくリアルタイムで地球の智子と通信を行えます。(現実には不可能とされている)
EPRパラドックス
対となる粒子のスピン(回転)は必ず反対になっており、片方の回転方向を知ることでもう片方の回転方向を(どんなに離れていても)知ることが出来るとされている量子もつれだが、それは「情報は光速を超えることは出来ない」という相対性理論に矛盾しているというもの。
汪淼⑥ -地球文明の絶望-
世界三体協会のリーダー文潔(ウェンジュ)を捕らえて三体世界との通信を行う施設を破壊した汪淼(ワンミャオ)たちでしたが、そこで上記の「智子計画」を知ります。
今も地球上のどこかに存在し、見つけることも出来ず三体世界からも常に監視状態であることを知った汪淼たち。
これでは彼らに対抗する為の科学を発展させることなど出来ようはずがありません。
三体世界への対策会議を行う作戦指令センターにいる汪淼たちの網膜に、短いメッセージが現れました。
「おまえたちは虫けらだ」
人類は三体世界の侵略を防ぐことが出来るのでしょうか?








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